名画座テアトル犬小屋

雑種犬が観た映画について書く場所。観たことのない映画で遊んだり、何度も観た映画についてしつこく語ったりするめんどくせえ、洗ってない犬の臭いがするブログ。

オショガツ特別版・第13回 「鬼滅の刃」炭治郎立志編一挙上映

えー、2020年内にあと1回ぐらい行けるかとも思ってましたが、年を越しちゃったのでオショガツスペシャル。

今回はタイトル通り、まああれこれ言うことはないですね。

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今、小さな子供がいるご家庭のほとんどで必ずあると思います。炭治郎の半纏や禰豆子の着物とお揃いの柄のジャケットやマスク。そのぐらい流行ってる作品を、今更正月休みに乗じてひと息に観ました。ネトフリで。

時代は大正初期。任務で炭治郎が訪れた浅草に十二階があるということは震災前ですね。まだ闇が駆逐されず、怪異が生き残っているギリギリ最後の時代でしょう。家業の炭焼きで生計を立てて、父ちゃんを病気でなくしはしたものの、残った母ちゃんと弟妹とホカホカ平和に暮らしていた炭治郎は、鬼に家族を殺され、唯一生き残ったすぐ下の妹を鬼に変えられ、それでも凄まじき精神力で人を食わず自分を守る禰豆子を連れ「妹を人間に戻す」という目的だけを引っ提げて、幼い兄妹二人きり、いつ終わるかあてのない旅に出る━━。

と、改めてあらすじを挙げるのすら野暮なほどに大流行りしておりますが、押井監督が「和製ヴァンパイアスレイヤー」とインタビューで触れていたのもあって、ちょっと気になり観たわけです。実は結構ヴァンパイアもの好きなもので。

うん。日本が舞台ということで、わかりやすく「鬼」と呼ばれておりますが、ちょっと捻ったヴァンパイアものですね。

主人公たちがなぜ戦うのかは当然として、鬼の側も「なぜそこへ至ったのか」「何がそうさせたのか」をしっかり描かれている。で、それが結構切実なもので、他にも道はあったのかもしれないけれど、そこへ至ってしまったもの悲しさが垣間見える。

しかも、それを討ち倒す側の炭治郎が、単に鬼コロスマシーンとか鬼死ね死ね団になってるわけでなく、その辺を悟って、一番つらいところは救っていくのが、ああこの子はどう転んでも長男なんだなと。無意識レベルで、身の回りにいる誰であれ、当たり前に背負っていっちゃうから、伊之助にも社会的な常識だとか、チームで動くのに必要な連携だとかを教えていくし、鬼にはそうなる「前」があるんだからそこだけは救ってやらないとダメなんだと、あほほど強い上に組織の重鎮になってる兄弟子にも意見する。

で、ただ長男属性なのかなと思って見てると、何せ山育ちなもんだから、世間知らずなぶん素直で、教えられたこと素直にそのままやろうとしちゃうから、大人は心配になるよね。この子こんなにすぐ他人を信じちゃって大丈夫なのか。ただし妹をブサイクと言われると凄まじきご立腹だったので、そこは判断できるのはオジさん安心したよ!

その周りにいる大人たちもいろんな過去を引きずっていて、鱗滝=センセイは見送った弟子がほぼみんな最終選別の試練で死んで帰ってこなかったのがでかい傷になっていたり、医者も務めるしのぶさんは、自分を庇って姉が死んだという後悔があるし、みんながみんな重いもん抱えて、それでも生きて戦ってる。

一方で鬼の方も決して一枚岩でなく、鬼舞辻=サンの、まずいラーメン量産しながらそれでもスープの配合も麺も変えない頑固親爺みたいな聞く耳持たなさや、とにかく人間襲って食ってヒャッハーとかに嫌気がさして逃げ出した珠世さんみたいな人もいれば、そこそこ出世できたぜウッハー、と調子こいているとあっさりリストラされて食われちゃう下弦の鬼もいるし、鬼舞辻=サンお前友達いないだろ…。

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で、何せ日光が苦手な鬼が相手です、どうしたって鬼を倒す炭治郎と禰豆子の旅は、夜を渡るような地獄巡りの様相を呈しますが、幼い兄妹二人きりでただ旅から旅という暮らしにならなくてよかったなとね、観ていて思うんですよ。善逸と伊之助がいてよかったなと。

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いいトリオですよねこの子ら。炭治郎は仲間や兄弟という、面倒を見る相手がいることで折れないでいられるし、伊之助は背中を任せられる友達ができたことで無茶苦茶な戦い方を自制できるようになって、善逸はヘタレだから俺はダメな奴だというセルフイメージを少しずつ見直して、もうちょっとがんばれるかもしれないと思えるようになっていく。3人で足りないところを補い合って、いいチームになってるの。ある意味善逸と伊之助がいてくれることで、炭治郎は人間味をなくさずにいられてる。

鼓屋敷編での「俺は長男だから耐えられたけど」は、一見ギャグのようにも思えますが、あれって実は「そういうマインドセットで闘い続ける」ことを強いられるという、凄まじくひどいシーンなんだけど、そんなものを背負いながらも、友達がいて妹がいるという、決して独りで戦っているわけではないことが、炭治郎には救いになってる。

 

と、知ったような口を叩いておりますが、私個人としてはこのお二人がなんか気に入っております。

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マッドエンジニアって最高だな! それも日本刀なんて、玉鋼の層を2万3万まで重ねる匠の狂気が産み出す至高の一品でしょ。そんなものを日々創造してるエンジニアだからね、たまらねえな!

 

ちなみに姪のパナールちゃんは、好きなキャラクターが何人もいるので「見る人全部ステキに見えちゃうんじゃ蜜璃ちゃんみたいだね」と言っておきましたが、本人ケタケタ笑っておりました。

 

お話はこのあと、現在劇場版として公開されている無限列車編に続いておりますが、すげえ気になるよねー。

ヴァンパイアもの好きの視点では、まず鬼舞辻=サンのオブセッションが気になるところです。行きあった酔漢に顔色の悪さをからかわれただけでトサカに来て「私の顔色は今にも死にそうに見えるか」と絡んでぶち殺しって、何を根っこに「死にたくない」に繋がっているのか。その辺は非常に気になるところですが、どうしようかな。原作コミックスはパナールちゃんマグダルちゃんが買い集めていて、いや同じ家の中にもう1セット揃えるのもなあ。電書? と迷ってるところなので、もしかしたら続きがアニメになる方が早いかもしれない。

まあ、その辺についてはおいおい考えます。

 

改めて自分で観ると、これは何で子供たちに受けたのか、なんとなくわかる気がする。

とにかく炭治郎は闘い方が泥臭くて等身大なので、子供たちは親近感を持ちやすいよね。で、妹や友達を大事にするいい奴でもあるので、ポケモンでいうならサトシ君みたいなもんです。自分も友達になれそうな身近さで、何があろうと友達やピカチュウの手を離さず一緒に歩いてくれて、困ったときには一緒に戦ってくれる。子供たちの憧れの友達。

人間食べ食べシーンがあるというので「進撃の巨人」とも比較して語られることもあったようですが、私、パナールちゃんマグダルちゃんには巨人さんは見せません。巨人さんはね、確かに立体機動装置のガジェットがスタイリッシュでカックイイしアクションすげえとは思いますが、あれ、エレン君は誰も信じられないところで戦ってるでしょ。エレン君だけでない、同じ部隊の仲間たちもみんなそう。チームで動いてるのが、仲間と支え合って、ではなく、それが一番自分の生存性を高めるからでしかないし、信じ合ってる仲間同士でも最後の最後、疑念がひとかけら残るところが残酷だし、何より雑誌掲載時に物議を醸した「お母さんバイキング」で、なんでこれを月マガで連載させちゃったのかと衝撃でした。あれは本来なら、そういうどす黒い展開も受け止められるような読者層の雑誌、そうねハロウィンとかサスペリアとか、そういうところでやった方がよかったんじゃないのか。押井監督と並んで日頃私が尊敬している富野監督は「僕はあれ(巨人さん)を子供や孫に観せたくありません」というようなことをおしゃっていたそうですが、あのお母さんバイキングのくだりでいやというほどわかりました。あれは大人が見るもんであって、子供には触れさせちゃいけない。

で、鬼と戦って手足はおろか頭がゴロンゴロン落ちる漫画が少年ジャンプで連載されてて、アニメが子供たちにバカ受け、というのでちょっと心配だったんですよ。姪ふたりは観たがってるけど、これ見せちゃって無問題なのか? いやそりゃあ俺、今のパナールちゃんぐらいの歳ですでに「吸血鬼ハンターD」とか平気で読んでたけどさ!

そんな不安もあったんですが、実際に観たら実にあんしんアトモスフィア濃厚でした。実際安全な。アクションすごいし首は落ちまくり飛びまくりだけど、それ以前に子供たちが支え合って成長していく姿の方がしっかり描かれてる。巨人さんと違って、大人たちは子供を道具のように利用することはなくて、鱗滝=センセイやお館様はちゃんと何かあれば手を差し伸べる人で、何より炭治郎自身が「方法さえわかれば禰豆子は人間に戻れる」と、可能性を信じている。やっぱりね、子供たちにはそういう、未来や人間を信じるものを見せたいじゃないですか。ねえ。

 

と、毎度のことながら鬱陶しい感じに仕上がっておりますが、今はこの兄妹の地獄巡りが終わって、夜を渡り歩くような旅から解放されて、揃ってお日様の下を歩けるようになることを願ってやみません。頼む、ひとり残らずシヤワセになってくれ。オッさんからのお願い!

 

なんかこれ以上やってるとキリがないので、この辺でやめておきます。

次からはまた、通常営業で映画にします。ここまで鬱陶しくならないものにしよう。