名画座テアトル犬小屋

雑種犬が観た映画について書く場所。観たことのない映画で遊んだり、何度も観た映画についてしつこく語ったりするめんどくせえ、洗ってない犬の臭いがするブログ。

第16回 二本立てスペシャル「キングスマン」「キングスマン ゴールデンサークル」

3連休の大半をぶち込んで観てしまいました。

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俺得でしかないスーツ姿のイケオジ炸裂スパイアクション映画。

誰だ今「コリン・ファースが一分の隙もなくスーツ着てるのが好きなんだろ」とか言ったのは。ああそうさ嫌いじゃないさ。わかったらガタガタ抜かすな。

 

若者はネタとしてしかご存じないでしょうが、昔からこの手の「大富豪が世界平和のために私財を投げ打って組織を作る」的なお話はあって「サンダーバード」なんかもその系譜ですね。あれは大富豪が自分の息子や姪をエージェントとして、名前もそのままずばりな国際救助隊を創設しておりました。

この映画に登場する組織・キングスマンは、貴族御用達だったテーラーが、顧客たちの資産を相続することとなり、その莫大な資金を国際平和に貢献するために使おうという目的で結成されたもので、何せ元が貴族御用達の店なだけに、顧客のルートで世界中に多種多様なコネクションがありますから、その手の情報収集や操作、武器や特殊な道具の手配や開発には困らない。

そんな組織のエージェントだった父親を幼い頃に亡くしたエグジーは、夫を亡くし失意のうちにあったのも束の間、すっかり自暴自棄になった母親と、父親の違う幼い妹と3人、ド底辺の生活をしておりましたが、ひょんなことからかつての父親の上司と出逢い、その手引きで、生前の父がいたキングスマンのエージェント候補に。数々のテストや訓練を受け、何事も諦めて流されるしかないのだと思っていた彼は、堂々たる紳士に成長していく━━。

というお話。この映画はスパイアクション映画であり、主人公の成長を描くビルドゥングス・ロマンであり、また師弟の絆の物語でもあります。

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最初はこんな、ちょいヤンチャな若い子が好むカジュアルファッションのエグジー君ですが、「君のお父さんに命を救われた」というハリー=センセイによって、きちんとした教育を受けるチャンス、キングスマンのエージェント候補訓練を受けると、だんだんファッションも変わっていきます。

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まず訓練中の私服がタータンチェックのジャンプスーツに白いワイシャツ。一度は最終試験で落とされてしまうものの、思わぬトラブルと、ハリー=センセイとのつらいお別れを経て、改めて組織の一員として迎えられることになるとこうです。

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で、またこのスーツがねえ。なにせ表の仕事がテーラーだから、仕立てがきれい。ちゃんと全員ジャストサイズに仕立ててあるから、どんなにハードなアクションしても崩れないの。

まず1作目では、携帯電話やネットツールを悪用してヒトの脳に直接作用し暴力的にする電波を発生させようとした大富豪が悪役として登場します。事前事業としてネット使用や通話を永久無料にするICチップを希望者に配りますと称して、電波を送り込むチップを世界中にばら撒き、地球環境のために人間を淘汰するという自分の思想に共感した国家元首やセレブだけをシェルターに保護して計画を実行。それを阻止するためにエグジー君はシェルターへ潜入するのですが、そこで待っていたのは、訓練過程で失格したセレブの倅・チャーリーでした。

この、シェルターでの白兵戦が、スーツなんてカチッとして動きが制限されそうなもの着てるのにここまで動けるのかというねしかもここまで動いていながら着崩れることがないってすごくねえかとね。このシェルター潜入の前、悲しい別れ方をするハリー=センセイの潜入捜査のシーンもね、スーツ着ててこんなにアクションできるってのが、目からいろんな体液出そうなほど眼福。

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この騒動は、富豪の私兵に追い詰められたエグジー君の閃きによって無事解決。

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組織の志を忘れ、富豪のキラキラした口上に乗ってしまったキングスマンの元締め・アーサーはエグジー君の機転によって死に、冒頭でハリー=センセイが危惧していた組織の動脈硬化は無事回避されます。新たな元締めが選任され、エグジー君はハリー=センセイの跡を継いで、エージェント・ガラハットとなり、きちんと職を得て、晴れて街のチンピラのリーダーの情婦になっていた母親と幼い妹を迎えにゆきます。

このラストが心憎い。

出逢ったその日にハリー=センセイがチンピラを叩きのめしたのと同じ手順で、何かと母を殴るチンピラ間男を叩きのめすの。

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この一連の流れを、ラストでエグジー君が再現するんですよ。お母さんを迎えに行ったその場で。

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しかもハリー=センセイの名台詞「マナーが人を作る」をやっぱり同じように口にして。センセイ大好き芸人か! でもわかるー。

 

このシリーズ、キングスマンのコードネームは皆様Fateシリーズでおなじみ、円卓の騎士からきてるのね。

で、ハリー=センセイの跡を継いだエグジー君と一緒に、空席になっていたランスロットを継いだのが、訓練仲間のロキシー=チャン。

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賢くてかわいくて気立てもいい子です。

そして情報操作やエージェントのバックアップを務めるのがマーリン。ただし王の話はしない。

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1作目の悪役がこの方ってすげえな。

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ストイックな黒いパンツスーツに両脚の義足で格闘する美人秘書・ガゼル=チャンを連れております。趣味いいな。

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で、2作目「ゴールデン・サークル」の悪役がこちら。

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あちらもんのお料理番組とかで料理教えるカリスマセレブ主婦みたいな感じですね。得意料理はハンバーガー。使えねえ部下でミンチ肉を作っておにくを焼き焼きします。

映画公開当時にバーガー屋がコラボメニューとか出してたそうで、いや、どうなん。みんなこれをどんな顔して食ってたの。

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今回は、前作で生き延びてたチャーリーが落ちぶれて、キングスマンに復讐しようとします。組織の情報を手土産に、お料理マダムの麻薬密売組織に入り、なくした声帯と右腕を機械にした部分サイボーグとして登場。こいつの罠により、キングスマンの各拠点は襲撃を受け壊滅、ロキシー=チャンも、エグジー君が留守を頼んでいた親友と愛犬・JBも殺されてしまいます。当然テーラーも襲撃されており、大慌てで駆けつけたエグジー君は、同じく異変を知って駆けつけたマーリン=サンと合流。マーリン=サンは事務方だから、住所が本部の連絡網に載ってなかったのだ。

生き残った2人だけで、さあどうやって戦おう? 

組織の最終緊急プロトコル通りに隠し金庫を開け、中にあった酒のボトルに隠されたヒントを手がかりに、舞台は新大陸へ。なんとそこには、キングスマンと志を同じくする組織・ステイツマンがあったのです。

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表向きはウイスキー工場。酒蔵の一つが本部への出入り口で、奥にはハイテク満載の基地が。

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で、勝手のわからないアメリカで、マーリン=サンとエグジー君のサポートをしてくれるのが、ベテランエージェント・ウイスキー=サンと、キングスマンではマーリン=サンが務めるサポート役を引き受けるジンジャー=チャン。

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ジンジャー=チャン、ハル・ベリーなんですよ。クッッソカワイイ…。

チームはハンバーグ名人のポピー=サンが大統領へ向けて宣戦布告したことで、掴みどころが得られずにいた組織の正体を知り、チャーリーの元カノをとっかかりに、組織へ肉薄していきます。

前作で死んだと思われていたハリー=センセイとの感動的な再会、記憶喪失になっていたセンセイをエグジー君が荒療治で回復させたり、という、前作を観ていればこその胸熱シーンももりもりですが、ポピー=サンの拠点の一つへ潜入、脱出行のさなか、センセイが同行するウイスキー=サンを敵と疑うなど波乱も含みつつ、映画はクライマックスへ。

ポピー=サンの「自社製の麻薬に殺人ウイルスあつ盛り計画」により、世界は大混乱。ワクチンを載せたドローンの発射プログラムのキーワードを求め、ポピー=サンの秘密の基地へと向かう、エグジー君、ハリー=センセイとマーリン=サン。ところがここで、地雷を踏んでしまったエグジー君を助けて、マーリン=サンが漢道炸裂の壮絶な自爆を決めます。

でかい声で「カントリー・ロード」熱唱しながら、正面ゲートの見張りを全員引きつけたところで起爆。

前作の冒頭、テロリストの自爆に仲間を巻き込むまいと、エグジー君のお父さんが手榴弾を押さえ込み爆死した、その現場に、ハリー=センセイと共にマーリン=サンも居合わせていたのです。

「今こそ君のお父さんの恩に報いるときだ」って、いい笑顔で熱唱して覚悟の自決ですよ。

仲間や親友をなくしながら、それでも、いや、だからこそ前へ進んで、大事な人たちがいた世界、今大事な仲間がいる世界を守ろうと、エグジー君とハリー=センセイは戦うのです。

どうにかポピー=サンからキーワードを引き出し打ち倒したものの、そこへタイミングよく現れる真の敵。

そう、ハリー=センセイの読みは正しかったのです。

かつて何より悲しい別れを経験したウイスキー=サンは、その引き金となった麻薬を、それを使うものを激しく憎んでいました。

「世界中のジャンキーを粛清できる好機じゃないか」と、その誘惑に抗うには、過去のお別れは悲しすぎたのです。

なにせお互いエージェント同士、戦闘能力は伯仲しておりますが、仲間を捨て信念だけしか持たないウイスキー=サンには、師弟のコンビネーションは打ち破れませんでした。

もうね、前作を観てると、ついにエグジー君がセンセイとコンビを組んで戦えるぐらいに成長したのが胸熱。

あとねえ、事あるごとにエグジー君はセンセイが教えてくれたことを思い出したり、今はセンセイの家をそのまま維持したくて住み込んでたり、過ごした時間は短くても、すげえ尊敬して慕ってるの。前作のあのシェルターで、独房に放り込まれてた北欧のお姫様ナンパしてたのが、その後もきちんと真面目にお付き合いしてて、ご両親に会うからってんで彼女がテーブルマナーのことを心配すると「得意だよ、ちゃんと教わったんだ」って、センセイが教えてくれたんだよねえ。

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そういう、センセイが教えてくれたことを宝物みたいに大事にしてるのがね、前作ラストのあれといい、こう、グッときませんか。俺だけですかそうですか。

 

あとねえ、このシリーズ、脇を固めるゲストがすごい。

1作目はマーク・ハミル、2作目にはエルトン・ジョン。最初そっくりさんでも連れてきてるのかと思ったら、エンドロールのキャスト見て「まじか」と。ポピー=サンが毎日エルトンのなま歌聞きたくて連れてきちゃったのが、いい加減アジト生活に飽きちゃってたので、見張りの私兵にドロップキックかまして脱走して、警備のワンチャン型ロボットにハリー=センセイが襲われてると助太刀してるし、なんかストレスたまってるんすか?

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本人です。まじで。

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あと、ステイツマンのボスもイケオジですね。燻銀なイケオジアトモスフィア濃厚ぶりを見て。

最後は、作戦中マーリン=サンに「私も現場に出たいってずっと志願してたの」ってこぼしてたジンジャー=チャンは、ウイスキー=サンの抜けた席に収まることになり、壊滅同然の状態だったキングスマンは、酒類販売の他にも株式投資などでがんがんに稼いでいるステイツマンから資金援助を受けて再建することになり、ワクチンは無事世界中に行き渡りハッピーエンド。

喧嘩してエグジー君と気まずくなったまま国へ帰っていたお姫様も、おそらくは持ち前の好奇心で摂取してしまった麻薬のせいで危険な目に遭っていましたが、ワクチンで無事に回復。

ラストがねえ、なんとエグジー君、無事にお姫様と身を固めることになります。

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前作でのこのシーンが、思えばすべての始まりでしたが、ハリー=センセイはエグジー君に、このときにかけたのと全く同じ言葉で、人生の新しいステージへ踏み出す弟子を祝福するのです。

「エージェントは孤独」と言っていたハリー=センセイは、たぶんそういう旧来の組織のありようを変えて、これから先の時代を生き延びていけるものにしていきたかったのでしょう。訓練中、プログラムの一環として与えられた子犬を撃てと言われたとき、自分は虚無しか感じなかった、と語ったセンセイは、こう続けます。

「守るものがある者は強くなれる」。

たった独りで生きて、いつ任務の最中に死んでもいいようにしていたセンセイは、守りたいものを両手いっぱいに抱えているエグジー君に可能性を感じて、先へつながる道を予感していたのでしょう。お母さんを支えて、小さな妹を育てて、友達や好きな女の子のことだって守りたい。そういう大事なものがたくさんあれば、世界を守ろうとする強い動機になる。人間は、ただ漠然としたお題目ではなかなか動かないもので、そういう具体的な、実感を持てる何かのためならがんばれるものなんですよ。

だから、エグジー君にとってハリー=センセイは、自分を真人間にしてくれて、世界への扉を開いてくれた人だけど、センセイにとってのエグジー君は、自分がなぜエージェントになったのか、その原点を思い出させてくれて、今ある世界を大事だと思わせてくれる希望なのかもしれません。

この2人は、どっちが欠けてもダメなんですよ。

 

と、散々語り散らしもっともらしいことを並べ立てましたが、結論。

一分の隙もなくスーツ着たコリン・ファース最高かよ。

私がひたすら目の保養をするには最高すぎる映画でした。

1作目観終わったあとで、スーツ姿のコリン・ファースを更に摂取するために「裏切りのサーカス」観始めちゃったし。

おっさん。若い子よりも程よく脂っ気の抜けたおっさん。

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この味は若いだけでは出せないぞ。

 

あ、音楽の使い方もなかなか。1作目のクライマックスでの「威風堂々」は腹抱えながら観ておりました。拙者こういうセンス大好き侍。

 

この手の映画、大概主人公は女の子といい雰囲気になっても次作では存在すらなかったことになりがちですが、このシリーズはその点、エグジー君がちゃんと1作目でいい感じになっちゃったお姫様と真面目に交際し続けて、結婚までしてるのがすごくよかった。ちゃんと男としての責任を貫いてて、いい子だ…。

 

とにかくアクションのキレがハンパないうえ、何気なくブッ込まれたジョークが黒いし、何よりスーツ姿のコリン・ファースを舐めるよに拝める素晴らしきシリーズなので、いっぺん観てくれ。騙されたと思って。

 

ということで、さて、次の映画は何にするか、物色を始めるかな。