名画座テアトル犬小屋

雑種犬が観た映画について書く場所。観たことのない映画で遊んだり、何度も観た映画についてしつこく語ったりするめんどくせえ、洗ってない犬の臭いがするブログ。

第12回 「裏切りのサーカス」

これから青春本番、多感な時期の子供達の映画のお次がこれってのもどうなのかとは思うけど、好きなもんは仕方ない。

今回はこれ。「裏切りのサーカス」です。

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え、画像のタイトルが違うって? いやいや、これは原題なので大丈夫。原作はジョン・ル・カレの同名の小説です。
押井守作品と並んで、もう何回観てるのかわからないくらい観ております。そのぐらい回数を重ねて観る価値がある映画。あと、物語が深いので、何度も観ないと追いつかない。観る喜びに満ちた作品です。

 

深夜の密会からポーランドへ。そして唐突な事件。物語は、英国情報部に潜むソヴィエトのスパイを炙り出せと主人公・スマイリーが密命を下されることで始まります。

冒頭で情報部の総責任者・コントロールと共に組織を追われ去ったスマイリーが集めたチームは、若い情報部員のピーターに元警部のメンデル。作戦の存在自体を知るのは国防大臣次官のみというミッションは、スマイリー自身の過去、組織の重ねた歴史を重層的に描きながら、静かに、そして過酷に進んでいきます。

使命は暗に「もぐら」と呼ばれる内通者の特定。でもそれは、かつて苦楽を共にした戦友たちを徹底した疑いの目で見て洗い出すことだった…。

取り返しようのないすれ違いの末に自分を追い出したとはいえ、それでも戦友だったのは事実。その思い出があるだけに、自身が組織を追われたのと同時期にやはり退職を強いられた仲間たちと面会を重ねるうちに、徐々にことの真相がはっきりしていきます。

そして、隠れているもぐらを引きずり出す作戦が決行され、その場に姿を見せたのは…。

 

という、まあこんな感じのお話ですが、とにかく丁寧に丹念に作られた作品で、細部にまで気を配られています。さすが実際に英国情報部に在籍していた作家の小説を映像化しているだけに、とにかく重厚でケレンがありません。

冷戦時代の諜報戦、というだけでなく、その諜報戦にどんな人間が携わっていたのか、彼らは何を目指して日々、頭が煮えるほど考えを巡らし、ときに手を汚してまで知恵を搾り戦ったのか。そして、もぐら捜しと並行して描かれる、寄宿学校の新任教師と内気な少年の交流を通して、スパイというものがどんな思考をする能力を求められるのかが語られています。

スパイものだからといって、派手なアクションは一切ありませんが、その分、実際のスパイ戦というものをじっくりと見せてくれます。ときに自分が属する組織すら謀り、仲間すら欺き、目的を果たすために全霊をかける。下手にアクションを見せるよりシビアで過酷です。

それだけに、演じる俳優陣も目から血ィ噴きそうなほど豪華なラインナップです。ガチで芝居のうまい人しか呼んでない。

主演はゲイリー・オールドマン。「レオン」のときはふーん、って感じだったけど、この映画のゲイリー・オールドマンはすげえいいです。いい枯れ具合の程よいおっさんです。ピーターはベネディクト・カンバーバッチ、スマイリーの友人で組織に残ったヘイドンはコリン・ファース。すごかろ。これだけで白飯3杯いける。

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またシナリオがいいんだ。時折インサートされる、東ドイツ大使館でのクリスマスパーティーの様子がねえ。みんなでわいわい酒呑んで楽しく過ごして、という過去があるだけに、今あいつもこいつも疑ってかからないといけない皮肉な状況というね、それがとにかくつらいやらかなしいやら。昔はよかったのにね、と映像分析班のコニーが言うと「戦争の時代だよ、コニー」ってスマイリーが返すのがね。

あ、やべえ。今、教師と内気なぽっちゃり君の会話でうっかり泣きそうになった。何回か観てると、初見の人が驚愕で「アイエエエエエエエ! 」ってなるようなタイミングで泣き出す、「スカイ・クロラ」と同じ現象が!

「何人か知り合いにビルがいる。中にはいい奴がいた」って、ああ! もう!

あとねえ、個人的に最大の見どころは、途中でスマイリーのところに助けを求めてやってくる、情報部の汚れ仕事や濡れ仕事を請け負うリッキー・ター!

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すっげえかわいいでしょう。初めのうちは物語自体を咀嚼するので手一杯で見落としてたんだけど、この前いきなり気がついた。

トムハじゃん! トム・ハーディ!!

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どんだけ化けるんだよ!

てゆうかこんなかわいい系の濡れ仕事屋って、英国情報部すげえ趣味よすぎ。

だけどまじでかわいそうなことになるんだよね。リッキー。報われないイケメン。でもかわいいんだよねえ。「タイプじゃないのに」好きになっちゃった女性のためにがんばる、健気なわんこみたいな子です。

 

最初の1回では、たぶん表層の出来事だけを追いかけるのでいっぱいいっぱいになると思いますが、しっかり楽しみたいなら5回は観ましょう。そういう映画です。

同じ映画5回も観てられるか、なんておっしゃらずに。騙されたと思ってご覧ください。観るたびに違う楽しみ方ができる映画です。誰の立場で観るか、どこを観るか。それでハマったら、おめでとう、そしてようこそ沼へ。

沼へきたならおわかりいただけると思います。なんで私がいきなり名前の話で泣き出すのか。

とにかくこの映画、語ろうと思うと、部分を軽く語るだけで軽く3万字は超えるので、この程度でやめておきます。

あ、大使館のクリスマス会のシーンはすごいですよ。ここに色々なものが凝縮されてるし、レーニンお面のサンタが指揮者して全員でインターナショナル合唱という、パンチが効きまくった演出もあります。ブリティッシュジョークここに極まれり。

 

この映画には、徹底して顔を見せず、登場人物たちの会話で語られるのみであるが故に存在が強固になるキャラクターがいますが、この人物がどでかい作用をもたらすことで、物語が大きく決定づけられています。それがどんなものなのか、ぜひご自身の目でお確かめください。

さっきから観ろ観ろとしつこいですが、うん、自覚はある。でもそのぐらいすごい映画なの。しつこく勧めたいぐらいに。お願い。観て。

私は小金が貯まったら円盤買う。決めてる。そのぐらいすごいので、どうか記憶に留めるだけでも、名前だけでも覚えていってください。

端正に作られた、いい映画ですから。