名画座テアトル犬小屋

雑種犬が観た映画について書く場所。観たことのない映画で遊んだり、何度も観た映画についてしつこく語ったりするめんどくせえ、洗ってない犬の臭いがするブログ。

充電明け記念・第10回 「名探偵ピカチュウ」

前回からめっさ間が空いてしまいましたが、とりあえず当小屋の支配人は生きておりました。

ただ、足の筋を痛めて治療通院が始まったり、膨れ上がった蔵書の整理があったりなんかして、気がつくとこんなことに。反省。

で、これではいかんと思い立ち、今もぎっくり腰やってますが強引に再開。

それにあたって、どんな作品をぶつけようかと思案の末、こいつに決めました。

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「名探偵ピカチュウ」。

ジブリ映画じゃないけど、デートでも親子ででも友達とでも、まず外すことはないこの1本。

ハリウッドが本気を見せた作品です。

 

まず、主人公はポケモンが嫌いな若者で、そんなニイちゃんに、子供たちなら誰もが知ってるピカチュウをバディとして組ませるというにくい演出。

パートナーのポケモンと組んで働く父親は家庭より仕事を選んだ、と思う主人公は、ずっと父親と疎遠になっていて、だから父親がコンビを組んでいたポケモンも嫌い。そんな彼のもとに、人間とポケモンが当たり前に共存する街の警察から、父が行方不明になったと連絡が入ることで、物語は始まります。

彼が暮らす郊外ののんびりした町にはポケモンはいなくて、どうやらよそへ引っ越すらしき親友が「僕しか友達がいないんじゃ心配だよ」と、せめてパートナーがいれば違うだろうから、と町の外の野原へポケモンを捕まえに行くものの、何せ本人にやる気がないものだから失敗。そんなニイちゃんが、ポケモンがわらわらとその辺をスナック感覚で歩いてる大都会で、果たしてうまくやっていけるのか?

なんて思ってると、親父の失踪を知らせてくれた警部がケン・ワタナベ! しかもポケモンが相棒! 私ポケモンまったくと言っていいほど知らんのだけど、なんかブルドッグみたいな強面なんだけど、ミョーに愛嬌のあるやつでした。

で、警部から親父のアパートの鍵もらって見に行くと、そこで運命の出逢いです。

映画の冒頭、山奥の怪しげな施設から走り出した車が攻撃され、命からがら脱出した、あのピカチュウ! 一丁前に鳥打帽かぶって、探偵をこれでもかと主張しているピカチュウ! こんなに探偵であることを主張するのは榎木津礼二郎ぐらいだぞピカチュウ

ひょんなことから、どうやらこのピカチュウは人の言葉を理解して、あまつさえ会話ができると気がついたニイちゃん。ただ、会話はできても記憶をなくしているこのピカチュウと一緒に、父親の行方を探すことになります。

でね、このコンビがなんかいいんだ。突然ポケモンが凶暴なるガスが部屋から出たので、とりあえず父親を探して真相を訊かないと、という主人公と、記憶を取り戻すためにパートナーである主人公の父親を捜そうというピカチュウ。行きがかり上のなし崩しで結成したコンビは、なんか罵り合うユウジョウなのがいいんだ。

テレビ局の記者をやってるかわいい女の子と知り合うと面白がってけしかけるピカチュウとか、どうだ全然ちゃわゆいマスコット感ないだろう。

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しかもおっさんの声でこのセリフだ。この顔で。

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撫でられるとこうだし、見た目がカワイイなだけのおっさん。こういうすべてを裏切るギャップ大好き。

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日本だとどうしても、サトシ君のかわいくて頼もしい相棒ってイメージが強くて、ハードボイルド親爺をやらせようとか誰も考えないでしょう。でもこんな斜め上をいくキャラ付けを平気でやってくれると、むしろ痛快ですよね。

主人公も最初のうちは邪険に、というほどではないけど「肩に乗るなよ」なんて距離を置こうとしてるんだけど、一緒に行動してるうちになじんじゃてこうなる。

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で、何せポケモンが結構なウェイトを占める映画です。バトルもある。

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ただしお話の舞台となる街では、どうやらポケモンの権利もしっかり保障されているようで、このバトルステージはアングラの違法ステージとなっております。みろよこの絶対勝てなさそうな表情。

 

映画の大きな要素は、まず人間とポケモンのバディムービーというのがひとつ。そして主人公と父親、市長とその息子という二組の親子の物語というのがもう一つ。

ただ、この映画を作ろうと思い立った人がやりたかったのは、何よりあの、舞台になったライム・シティの風景を描くことだったんだろうなという気がしてる。

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人間がパートナーのポケモンを連れて歩いてたり、相棒がいない、言ってみれば野良ポケモンがその辺ちょろちょろしてたり、それが当たり前であるキービジュアルですね、これを見たかったし見せたかったんだろうな、という気がするんですよ。

ちょっと検索してたら「『名探偵ピカチュウ』は『ブレードランナー』だ」なんて記事がありましたが、確かにこれは「ブレードランナー」ですわ。重金属イオン雨は降ってないし昼間だし、街がきれいだけど、それでもポケモンと人間が混在しているこの世界は、ポケモンを通してセンス・オブ・ワンダーに触れる子供たちのための「ブレードランナー」です。

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こんな痛快な驚きに溢れたビジュアルを、これでもかこれでもかと次々盛り込んでくるんだからたまらない。

父親とのすれ違いのせいでポケモンが嫌いだった主人公は、ピカチュウとの冒険を通じて子供の頃の夢を思い出し、ずっと避けていた父と向き合えるようになります。そう、中身がおっさんになってもなお、ピカチュウは子供たちのヒーローなんですよ。いつか自分が投げたモンスターボールに入ってくれて、いつも肩に乗ってそばにいてくれる、そんな身近な相棒。

「ヒトはヒト以外の生命と共存できるのだろうか」というテーマも隠しながら、それでもこの凸凹バディにささやかながら可能性を感じられる、ちょっとだけ未来を信じてみよう、と思わせてくれる映画でした。

 

ところで、ミュウツーってなんか毎度ああいう役回りなキャラクターってイメージ強いんだけど、もっと違う面も見せて欲しいなと思ったりもする。人間が嫌いだったらアルテラ警察やってもらうとかどうすか。

あと最後に、個人的にはカワイイなピカチュウも悪くはないけど、この映画のおっさんピカチュウ最高が過ぎる。私ならコーヒーでなく焼酎…はまずいか、子供たちの憧れだ、それならそうだな、ユンケルだな。ユンケル飲ませます。

とにかくピカチュウの表情がすごいのな。昔うちで飼っていた銘犬マルチャン号を思い出しました。犬は笑うし拗ねたりふてくされたりもするし、表情豊かなんだけど、そんな感じ。

たぶん犬好きな方には、あの表情だけでも楽しいと思います。

いやあ、いいもの見させていただきました。ありがとう。