名画座テアトル犬小屋

雑種犬が観た映画について書く場所。観たことのない映画で遊んだり、何度も観た映画についてしつこく語ったりするめんどくせえ、洗ってない犬の臭いがするブログ。

第6回 「復活の日」

連休前の深夜。泡の出る茶色いやつを呑みながら観てしまいました。

大概は350缶2本でやめるんだけど、何だか間が持たなくて3本呑んでしまった。

ということで、まだ日本も角川書店も元気だった頃の1本です。

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実は私、この映画2度目ですが、ほぼほぼ初見と大差なし。

昔の小中学校では、生徒集めて体育館や講堂で映画を見せるのが授業の一環でありまして、中学生の頃にそういう視聴覚教室で観たんですがね。何でこの映画を選んだのか教師よ。小一時間問い詰めたい。何の関心もなく、自分で観たいものを選ぶのでもなく、関心のないものを2時間超見せられるわけで、だから当時の記憶では草刈正雄が出ていて南極でなんかやってる程度の、うっっすいもんです。

今改めて見ると、うん、このテンポ、監督が深作欣二だからまだ耐えられるってだけで、そうでもなければ私にはちょっとなあ。

あとやたら外国人が登場しまして、そういうキャスティングの点も考えると、金があるうちに作っといてよかったねと思いました(小並)

 

ジャンルとしてはパンデミックもので、このご時世で注目が集まったのか、ネトフリでも配信されております。

原作は小松左京。それを踏まえて観ていくと、小松左京先生のルサンチマンを各所に感じられてうーんこの。

ざっくりいうと、国際条約を密かに破って開発されていた米国製のウイルスが漏れて、地球上の脊椎動物が死滅。ウイルスが嫌う極低温環境の南極にいた、各国の基地に配属されていた800人ちょっとだけが、健康を損なわず生き延びていた…。というあらすじ。

帰ろうにも帰れず、故国からの連絡も途絶え、世界中で何が起こっているのか蚊帳の外な状態でさっぱりわからず、閉鎖環境下におかれて絶望する者、自暴自棄になり錯乱する者、それでも取り乱せずむしろ冷静になっていく者、様々いる中、地震予知の技術を研究するため調査隊のメンバーとなった草刈正雄が日本に残した元カノ・多岐川裕美は勤め先の病院が流行り病で野戦病院と化し多忙と疲労から流産、下について働いていた医師の緒方拳は診察の合間に過労で倒れ、さっきまで顔色よかったのにいきなりやつれて意識が不明! そこは触れないで差し上げろ俺! 知り合いの夫婦の家に様子を見にゆけば、女房の丘みつ子死亡! 残された子供も発病していて、そのまま安らかに死なせてやるべく「南極のパパに会いに行こう」と子供を連れてモーターボートで船出するって、宇宙船操縦できるのか万能すぎるぞナース!(船を宇宙船と呼ぶのは桜玉吉大先生の影響が濃すぎる) 一方、海の向こうのお米の国では、大統領が流行り病で死亡。死際の遺言で跡を継いだ副大統領もまた、南極の各国基地へ向けたメッセージを発信したところで力尽きて死亡! それに乗じ、我らがソヴィエト連邦にいかにうまく喧嘩を売るかしかテーマがない将軍が暴走、ソヴィエトからの攻撃に自動でカウンターかます各ミサイルのスイッチ入れたところでやっぱり死亡! なんかこの将軍の、それ以外のテーマのなさがもう、小松左京先生のルサンチマン丸出し感すごくてちょっと甘酸っぱい気分になるぞ! 

で、そんな世界中の獅子てんや瀬戸わんや(やめろ)は、何せ南極にいるのでわからないわけで、断片でしか入らない情報にやきもきしていたところに、米国からの最後のメッセージと、無線の使い方もわからないまま助けを求める子供が絶望し、親の銃で自殺する様子を偶然耳にしてしまった観測隊の渡瀬恒彦が引きずられて吹雪の中へ出て行っちゃったり、徐々に煮詰められて行きまして、ついに各国基地が集まって、どうも生き残りは自分たちだけのようだから独立国として肩寄せ合ってやっていこうということに。

移動の脚がない、食糧の備蓄も2年程度、おっさんから若ェ衆まで800人に対して女性は8人、という極限状態は問題しかないわけですが、その中で一番でけえ扱いで取り上げられるのは「男女比えげつなさすぎ問題」で、全員に公平に致す機会を与えてくれとか、この辺も、時代もあるんだろうけど、女性の方がむしろ主導権握っていける状況じゃないのかと思うんですがね。桐野夏生先生の「東京島」的にさあ! 結局、8人のうちのひとりの女の子が襲われたのがきっかけで行われた討論の結論は「我慢して」「野郎が何人いると思ってるの」「全員に平等に機会くれや」というゲスいもので、ここに更に、エゲレスの潜水艦クルーが加わって野郎が増えるからね。何だこの香ばしい地獄絵図。

そうこうするうちに、大地震が発生して核ミサイルが衝撃で発射される可能性とか言い出して、いやそんな、ブラウン管テレビ殴って直すとかそういうアレじゃないんだから。

すったもんだの末、正雄と、正雄が気に食わなくて突っかかってた米軍のあんちゃんがミサイルのスイッチ切りに行くことに。潜水艦でワシントンの湾岸まで乗りつけてからゾディアックでポトマック川へ入り上陸。がんばったものの、地震でミサイルは飛び立ち、軍人のあんちゃんは死亡! 作戦の性質上、行ったきりの特攻だった正雄は状況を報告して潜水艦は帰還。

まあ、物語自体はありがちな終わり方なんだけどね。正雄は3年4年かけて歩いて南極まで帰って、その間に十数名程度に目減りした生き残りの仲間と、ヒロインのオリビア・ハッセーと無事に再会、ウイルスは核爆弾の放射能が世界中にばらまかれて、正雄が帰る旅の間に変質・無害化していたというオチ。ちなみに正雄が道中発病もせずに無事だったのは、生き残りの中にいた学者がワクチン作るんだと独りで研究し、やっとできた自称自信作を注射していて、そいつがたまたま効いたから、という、何だよそれ結果オーライじゃねえか。てゆうかこの学者、ウイルスに放射能浴びせたら変質したって、母国でやらかしたから南極観測隊に放り込まれたマッドサイエンティストなんじゃないのか。どんな学者飼ってたんだよ…。

映画の感想ですか?

ダレ場ねえなと思いながら観てましたが、全体的にペースが緩いので、変にあったらテンポがおかしくなってたかも。あと多岐川裕美がねえ、今もきれいな方だよね。年輪は重ねても劣化してない美女だよね。ほんと変わらないのですげえと思いました。オリビア・ハッセーもやっぱりきれい。そりゃあ布施明がドゲザで「付き合ってください」をぶちかますのも無理ねえな。「ナイルに死す」でも思ったけどさ。それと正雄はしのごの言わずにおヒゲなさい状態でしたがやはりカックイイのって得だよね。

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で、大概のハリウッド映画は「ロシア人の役なのに顔がロシア顔じゃねえ」という問題がありますが、この映画もそうなんだよなあ。クルーに発病者が出たと救助を求めてきたロシアの潜水艦長、どう見てもラテンの血が騒いでねえか。ちなみにこのロシア艦は、病の蔓延前に任務についていたためクリーンだった先述の英国艦に轟沈されます。ひでえ。

それにしても、キャストの関係上どうしても大半のセリフが英語でして、それはいいんだけどね、翻訳した字幕が御行儀よくて、もしやと思ったらエンドロールに出てました。翻訳はやっぱり戸棚先生だった。

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フルメタル・ジャケット」で、日本語訳したセリフを更に英語訳し直して答え合わせをしたら「お上品すぎる」とキューブリック直々のご指摘で翻訳から外された戸棚先生。そりゃあ御行儀いいわなあ。

 

ということで、今観ると特撮が緩いとかミサイル基地のセットが雑いとかはありますが、街の中の荒れ具合とホワイトハウスの執務室が徐々に汚部屋になっていく過程は丁寧にやってたのはよかったなと。「金があったからできた」アトモスフィア濃厚な、ぬるーく観る類いの映画でした。

ほんとに何でこの作品を視聴覚教室でかけようと思ったのか、なぜこのチョイスだったのか、責任者の教師に意見訊いてみてえ。

 

追記:女の子が襲われて討論のくだり、ボーイズラブじゃダメだったのか?