名画座テアトル犬小屋

雑種犬が観た映画について書く場所。観たことのない映画で遊んだり、何度も観た映画についてしつこく語ったりするめんどくせえ、洗ってない犬の臭いがするブログ。

充電明け記念・第10回 「名探偵ピカチュウ」

前回からめっさ間が空いてしまいましたが、とりあえず当小屋の支配人は生きておりました。

ただ、足の筋を痛めて治療通院が始まったり、膨れ上がった蔵書の整理があったりなんかして、気がつくとこんなことに。反省。

で、これではいかんと思い立ち、今もぎっくり腰やってますが強引に再開。

それにあたって、どんな作品をぶつけようかと思案の末、こいつに決めました。

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「名探偵ピカチュウ」。

ジブリ映画じゃないけど、デートでも親子ででも友達とでも、まず外すことはないこの1本。

ハリウッドが本気を見せた作品です。

 

まず、主人公はポケモンが嫌いな若者で、そんなニイちゃんに、子供たちなら誰もが知ってるピカチュウをバディとして組ませるというにくい演出。

パートナーのポケモンと組んで働く父親は家庭より仕事を選んだ、と思う主人公は、ずっと父親と疎遠になっていて、だから父親がコンビを組んでいたポケモンも嫌い。そんな彼のもとに、人間とポケモンが当たり前に共存する街の警察から、父が行方不明になったと連絡が入ることで、物語は始まります。

彼が暮らす郊外ののんびりした町にはポケモンはいなくて、どうやらよそへ引っ越すらしき親友が「僕しか友達がいないんじゃ心配だよ」と、せめてパートナーがいれば違うだろうから、と町の外の野原へポケモンを捕まえに行くものの、何せ本人にやる気がないものだから失敗。そんなニイちゃんが、ポケモンがわらわらとその辺をスナック感覚で歩いてる大都会で、果たしてうまくやっていけるのか?

なんて思ってると、親父の失踪を知らせてくれた警部がケン・ワタナベ! しかもポケモンが相棒! 私ポケモンまったくと言っていいほど知らんのだけど、なんかブルドッグみたいな強面なんだけど、ミョーに愛嬌のあるやつでした。

で、警部から親父のアパートの鍵もらって見に行くと、そこで運命の出逢いです。

映画の冒頭、山奥の怪しげな施設から走り出した車が攻撃され、命からがら脱出した、あのピカチュウ! 一丁前に鳥打帽かぶって、探偵をこれでもかと主張しているピカチュウ! こんなに探偵であることを主張するのは榎木津礼二郎ぐらいだぞピカチュウ

ひょんなことから、どうやらこのピカチュウは人の言葉を理解して、あまつさえ会話ができると気がついたニイちゃん。ただ、会話はできても記憶をなくしているこのピカチュウと一緒に、父親の行方を探すことになります。

でね、このコンビがなんかいいんだ。突然ポケモンが凶暴なるガスが部屋から出たので、とりあえず父親を探して真相を訊かないと、という主人公と、記憶を取り戻すためにパートナーである主人公の父親を捜そうというピカチュウ。行きがかり上のなし崩しで結成したコンビは、なんか罵り合うユウジョウなのがいいんだ。

テレビ局の記者をやってるかわいい女の子と知り合うと面白がってけしかけるピカチュウとか、どうだ全然ちゃわゆいマスコット感ないだろう。

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しかもおっさんの声でこのセリフだ。この顔で。

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撫でられるとこうだし、見た目がカワイイなだけのおっさん。こういうすべてを裏切るギャップ大好き。

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日本だとどうしても、サトシ君のかわいくて頼もしい相棒ってイメージが強くて、ハードボイルド親爺をやらせようとか誰も考えないでしょう。でもこんな斜め上をいくキャラ付けを平気でやってくれると、むしろ痛快ですよね。

主人公も最初のうちは邪険に、というほどではないけど「肩に乗るなよ」なんて距離を置こうとしてるんだけど、一緒に行動してるうちになじんじゃてこうなる。

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で、何せポケモンが結構なウェイトを占める映画です。バトルもある。

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ただしお話の舞台となる街では、どうやらポケモンの権利もしっかり保障されているようで、このバトルステージはアングラの違法ステージとなっております。みろよこの絶対勝てなさそうな表情。

 

映画の大きな要素は、まず人間とポケモンのバディムービーというのがひとつ。そして主人公と父親、市長とその息子という二組の親子の物語というのがもう一つ。

ただ、この映画を作ろうと思い立った人がやりたかったのは、何よりあの、舞台になったライム・シティの風景を描くことだったんだろうなという気がしてる。

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人間がパートナーのポケモンを連れて歩いてたり、相棒がいない、言ってみれば野良ポケモンがその辺ちょろちょろしてたり、それが当たり前であるキービジュアルですね、これを見たかったし見せたかったんだろうな、という気がするんですよ。

ちょっと検索してたら「『名探偵ピカチュウ』は『ブレードランナー』だ」なんて記事がありましたが、確かにこれは「ブレードランナー」ですわ。重金属イオン雨は降ってないし昼間だし、街がきれいだけど、それでもポケモンと人間が混在しているこの世界は、ポケモンを通してセンス・オブ・ワンダーに触れる子供たちのための「ブレードランナー」です。

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こんな痛快な驚きに溢れたビジュアルを、これでもかこれでもかと次々盛り込んでくるんだからたまらない。

父親とのすれ違いのせいでポケモンが嫌いだった主人公は、ピカチュウとの冒険を通じて子供の頃の夢を思い出し、ずっと避けていた父と向き合えるようになります。そう、中身がおっさんになってもなお、ピカチュウは子供たちのヒーローなんですよ。いつか自分が投げたモンスターボールに入ってくれて、いつも肩に乗ってそばにいてくれる、そんな身近な相棒。

「ヒトはヒト以外の生命と共存できるのだろうか」というテーマも隠しながら、それでもこの凸凹バディにささやかながら可能性を感じられる、ちょっとだけ未来を信じてみよう、と思わせてくれる映画でした。

 

ところで、ミュウツーってなんか毎度ああいう役回りなキャラクターってイメージ強いんだけど、もっと違う面も見せて欲しいなと思ったりもする。人間が嫌いだったらアルテラ警察やってもらうとかどうすか。

あと最後に、個人的にはカワイイなピカチュウも悪くはないけど、この映画のおっさんピカチュウ最高が過ぎる。私ならコーヒーでなく焼酎…はまずいか、子供たちの憧れだ、それならそうだな、ユンケルだな。ユンケル飲ませます。

とにかくピカチュウの表情がすごいのな。昔うちで飼っていた銘犬マルチャン号を思い出しました。犬は笑うし拗ねたりふてくされたりもするし、表情豊かなんだけど、そんな感じ。

たぶん犬好きな方には、あの表情だけでも楽しいと思います。

いやあ、いいもの見させていただきました。ありがとう。

第9回 「犬神家の一族」

また間が開いてしまいましたが、今日もまた古い映画なんだ。すまん。若者の皆さんすまん。

今日はこいつ。

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犬神家の一族」です。

 

何でこの映画なのかって?

うちの鶴丸島田陽子ファンだからです。

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この映画ではメインヒロインの珠世ちゃんの役です。「犬神家」実写化作品は数あれど、島田陽子さんの珠世ちゃんが一番のはまり役だと思っています。

従兄3人の誰かと結婚せいと世話になった爺さんに遺言され、それまで合えば挨拶する程度だった野郎2人に言い寄られるという、災難でしかないお嬢さんですが、野郎どもにしてみれば、こんな身も心も美しくてしっかり者の乙女が、バクダンみたいな金持って目の前にいて、剰え自分のやり方次第で金も愛も手に入るとなれば、そりゃあ行くでしょう。でも珠世ちゃんにしてみれば、真面目で気持ちも優しい佐清と清いお付き合いをしているわけで、お爺さんがお金を残してくれるのはありがたいけど、婚約者候補についてはいい迷惑でしかない。

実際うちの鶴さんも、俺が候補に含まれてたら全力でいく。砕けるの前提であたりに行く。って言ってます。やめとけよ。お前、グッドルッキング以外はただの二度童じゃねえか。

 

何度かこの映画観てますが、従妹の小夜ちゃんが隠れてかわいそうなんですよねえ。

財産のこともあるけど、従兄の佐智君もまあ好きだしで、親とおばさんに推されて付き合ってたのが、みんな祖父さんの遺言聞いた途端に見向きもしなくなって、カレピッピも珠世ちゃんに乗り換えようとし始めて、ってかわいそう以外の何者でもない。遺言でも存在が無だったもんねえ。

 

で、皆さん「犬神家」と言うと真っ先にあのゴムマスクと足に目を奪われがちですが、見てコレ。

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俺たちの兵吉パイセンが若いこと。

島田陽子さんが一緒のカットなのは、鶴さんの趣味です。

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そして市川崑金田一シリーズと言うと欠かせない。坂口良子さんの宿の仲居さん。

かわいいよね。亡くなられたのが惜しい。

リメイクでは深キョンちゃんがやってましたが、このかわいらしさ、後を継ぐのは深キョンちゃんにしかできない。

 

んで。

「犬神家」の事件の発端となった遺言書、コレも意味もなく真似したくなる変なオーラがあるなあ。

自分の遺言書の冒頭を「すべての財産とともに下方の斧琴菊は野々宮珠世に相続することとす」で始めるか、あるいは「ワシが死んだら三年間は隠しておけ。そして影武者を立てるのだ」で始めるか。迷う。

 

金田一シリーズのほとんどの作品、その特徴が「犯人に悪人がいない」ですかね。みんな誰かに幸せ摑ませるために極端な手段に走っちゃう。

昨今流行りのパズラー系ミステリもいいけど、こういう物語は「人間だから」起きてしまうことで、一見超個人的な感情のアヤや愛憎やあり得ねえだろという極端な舞台設定を見せているようで、その実、人間であれば誰しも思い当たる心の動きであって、すごく普遍的なことを描いている。恋愛ものとは真逆の性質のありようです。

恋愛モノっていうのは、誰だって一度は誰かを好ましく思う経験はあるし、今はなくてもいずれそうなることはあるけれど、その体験というのは、誰にでも訪れはしても、実はそれは、体験する者ひとりひとりみんな違うあり方であって、結局は個人に還元されてしまう。あなたのときめきと私のときめきは、同じものとして扱ってしまうのは乱暴すぎる。

 

まあ、そういうこともあって、ミステリやアクション、ときにはホラーなんかも観ますが、恋愛だけを売りにするものは観ません。

語り口が名人芸だというならばともかく、その辺のあんちゃんネエちゃんの下半身の事情なんて私には死ぬほどどうでもいい。

 

あとねえ、古い映画を観る醍醐味は、その時代時代の光景の外部記憶装置的な要素でしょうか。タコ部屋よろしくなやっすいボロ宿とか、今撮影セット作ろうにも、ここまでの狂おしきクオリティではできないでしょう。作ってるスタッフが若いからね、こんなきったねえ安宿、見たこともないだろうし。外での撮影にしたって、街がどんどんこぎれいになっている昨今、雰囲気のある場所は次々と減っている。だからってまさか現代物しか作らないなんていうわけにはいきませんし、難しいところです。

と、小難しいことを言ってるそばで、鶴さんが頷いてます。金田一の「珠世さんみたいにきれいな人が嘘はつかないでしょう」ってセリフに赤ベコみたいに首振ってます。

まあ気持ちはわかるけどさ。

 

金田一シリーズや、同時代の数多の小説や映画は、思えば戦争というどでかい闇がちょっと以前にあったという前提で生まれているんだよなあ。

いっぺん物心ともに更地の焼け野原になったところから始まった世界だから、希望もサツバツも全部ある。その上でのものだからね、それを乗り越えようと思ったら、中途半端な壊れ方ではおっつかない。

 

あ、お春ちゃんのお遣いシーン来た!

春ちゃんが飯食おうとするとなんか訊いて邪魔する金田一。オゴリの意味がねえ。ヒドイ!

このシーン好きなんだ。

そりゃあ食べてる暇ないよなあ春ちゃん

 

うっは岸田今日子が若い(琴演奏シーン来ました)

 

あとねえ、「獄門島」もそうだけど「犬神家」も、すでにいない人物の奇妙なまでの支配が如実に描かれてますね。

死んだ網元が望んだ事態。

死んだ父親の悪意で相争う娘たち。

いないからこそ嫌でも存在を感じてしまう。まさに「不在ゆえの存在」。

 

ということで、あんまり長々と書くのもかえって読みづらいから、今回はこの辺でやめとこう。

たまに昔の映画を観るのも面白くていいぞ。

第8回 「オールド・ガード」

「ヴェノム」を観た流れで、そのままひと息に観てしまいましが、あとから気が付いた。「ヴェノム」主演はトム・ハーディ。この作品は主演がシャーリーズ・セロン姐さん。

MMFRか!

ということで、今回はこれだ。

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「オールド・ガード」。基本設定に軽くスーパーナチュラルを効かせたアクション映画です。

 

アフガンに派遣されていた海兵隊員・ナイルは、作戦中に死亡。したはずが生き返ってしまいます。小隊の仲間からは訝しがられ、部隊内でも噂になり始めていたところで、シャーリーズ・セロン演じるアンディが率いる不死者のチームに成り行きで合流。同じ境遇で何百年も生きる仲間と出会い、こうしてチームで戦うに至る経緯を聞いて、自分の体の変化に戸惑いながらも向き合おうとし始めますが、チームは不死者の体質を研究しようとする医療メーカーのCEOに狙われていた…。

ざっとあらすじをご紹介しましたが、見どころがたくさんあって、さすがネトフリ独占配信作品。「アイリッシュマン」と同様、ぬるいことはしてません。

演技はもちろん、アクションやらせても最高すぎるシャーリーズ姐さんをヒロインにキャスティングしたスタッフ、象印賞を進呈。

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冒頭でいきなりオーバーキルに遭っても即復活。

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アクションもこの通り。カックイイという褒め言葉が大前提の当たり前にしかならないわ。

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ナイルを仲間に加えたいとは思うものの、成り行きで同行させてはいるものの、それでもナイル自身が納得して選択できるよう、仲間や自分のことについてチームの皆が語り、道中「帰りたい」と言った彼女の気持ちを思ってあえて別れることを決めもする。

そうやって自分が選んだ道を尊重してくれたことに気がついたからこそ、別れてからチームが嵌められたことに気づいて、ナイルはアンディを助けねばと思い立った。選択肢は一つしかないからこそ、事実に向き合って納得できるまでの時間をくれた、自分が考えて決めることを大事にしてくれた、その思いに殉じようと考えて、やっとナイルは吹っ切れたんですね。ここからの彼女の戦い方が変わるのもポイント。

チームを裏切って罠を仕掛けたエージェントのところへ乗り込むと、そこにはやはり依頼主に裏切られて利用され、チームを嵌めたことを後悔するエージェントの姿が。

彼がチームを裏切った理由は、人情としてわからなくはない。ただ、やたらときれいで耳触りのいいことばかり並べる奴を、何で疑わなかったんだとは思うよ。世のため人のため、を何の利益もなくやる人間ほど胡散臭いものはないんだよ。「いいことをすると気持ちがいいんだ」だったら、快感を得るという利益を受けているから、まあそんなものかとも思うんだけど、そういう「私はこれをもらえます」というものをはっきり言わずに、やたらと役に立つためになる、しか言わない奴は、ろくでもない厄ネタなんですよ。

身を隠し移動する中で、アンディとチームのブレーン・ブッカーの過去が語られます。

アンディは魔女狩りの時代に助けられなかった親友の行方を捜し続けたものの、見つけられず諦めてしまった後悔を、ブッカーは不死になり歳を取ることもできなくなりながら、家族を捨てられずにいたものの、子供や孫が先に年老いて、自分も死なない体にしてもらえないかと縋られてもなす術がなく、愛する家族に恨まれながら別れた後悔を、それぞれに背負っていました。自力ではどうにもならない後悔です。質は違えど誰でもが同じように、どうにもならないことを後悔しながら背負って生きるけれど、彼らはいつ体の再生が止まって死ぬのかわからない、千年以上も後悔と一緒に、死ねない以上は生きざるを得ないんです。いつ自分が死ぬのかはわからないのに、致命傷を受けたときの激痛と心の痛みは常に付き纏う。そんなの、仲間がいなければ耐えられないでしょう。傷を舐め合うなんて言ってしまうと惨めな風に聞こえますが、人にはそんな風に支え合える相手が必要なんですよ。

「自分の歳なんてわからない」という、呆れるほど長く生きてきたアンディの正体については、この作品が観られる環境が整っているならぜひご覧ください。チームは自分たちの行動が本当に世の中に意味をなしているのか、役に立っているのかと疑問に思いながらも、他にやれることがあるでなし、目の前で虐げられている弱い者や子供を助けていますが、そんな彼らの行いが何を生んでいたのかも、見届けていただきたい。アンディのチームについて調べ上げたエージェントからそれを聞いて、ナイルは真の意味で新たなメンバーになる決心が固まります。

家族のもとに帰りたいと思うけれど、帰ったときに何が起こるのかはブッカーが教えてくれた。どう生きていけばいいのかは、アンディが道を作ってくれた。

腹が決まったナイルの戦い方が、ここで不死者の仲間たちと同じものに変わるのがちょっと感動的でした。傷を負っても体が勝手に回復し、致命傷すら治してしまう不死者にしてみれば、捨て身の戦闘はやけではなくスタイルの一つでしかない。

戦闘スタイルの変化でキャラクターの心境の変化を見せるってのも、なかなか面白いですね。

 

チームをつけ狙う悪人は滅ぼされ、依頼人がチームの功績に敬意を払うどころか非礼を働いたことにショックを受け、後悔していたエージェントが仕事の周旋を引き受けることになって、物語は終わりますが、ラストのワンシーンで続編を匂わせているのが気になる。来るの? ねえ続編来るの? 来るならちょっと正座で全裸待機以外の選択肢ないよ?

やるなら事前に公表してくださいネトフリさん。心の準備しておくので。あとチームのキャストは変えないでお願い。

 

なんかアクションが続いちゃったので、次はもう少し気楽に観られるものを持ってくるかな。

というわけで、無意識にMMFRつながりで2本キメましたが、次は関係ないところから持ってきてやるのでお楽しみに。

第7回 「ヴェノム」

連休の後半、昼下がりのひとときをたっぷり観てしまいました。

こいつ。

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というわけで「ヴェノム」です。

 

ここまで邦画の、結構古いところが多かったからね、そういう趣味なんだろうと思ったでしょ。

何でも観るよ。恋愛ものとホラー以外は。

ホラーはコケ脅しが酷いと鼻白むし、恋愛ものは近所のニイちゃんネエちゃんがどうしたとかは靴の裏よりどうでもいいので基本観ません。

ありえないだろという状況下でも変わらない、そんな場だからこそあらわになる、人間というものの姿を描くからこその物語だと思ってるので、SFやミステリは観るけど、個人の夏休みの絵日記レベルのものを見せられたところで、何を言えばいいの。ひまわり上手に描けたねえとかぐらいしかコメントしようがないでしょ。

 

そんなことはどうでもいい。

 

いやあ、トム・ハーディいいわ。MMFRではきったねえ格好で、生きていたいのかくたばりたいのかすら自分でも判然としないおっさんを見事に見せてくれたけど、今回は、曲がったことは大嫌いだけどアパートの向かいの部屋にうるせえと怒鳴ることさえできないチキンなニイちゃんぶりが絶妙で、大企業の犯罪告発しようとしてクビになり、結婚間近だった婚約者にも振られて、半年で以前の蓄えで食いつなぐズンドコ生活。それでも人のよさと天性の愛嬌で街の人たちに支えられていたところで、ひょんなことから生き物は何でも食っちゃう腹っ減らしの宇宙人と自分の体をルームシェア生活に! いや、だって「寄生」って言うとご機嫌損ねるから。

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最初は何でも食っちゃうつもりで地球に来たら、なんか意外と面白い場所で気に入っちゃったので、おそらく半年の酒クズ生活でガッタガタになった体を健康にしてやる代わりに俺ちゃんをおまいの体に住まわせろ、ということで、まあこの画像の通りの力関係ですね。

ヴェノム君にしてみれば、その辺を飯がヒョコヒョコうじゃうじゃ歩いてるわけで、でも無闇に襲わなくなったのは宿主にしてる相棒が総合的に困る→俺も飯に困る、という構図があるからで、なし崩し的に究極の共同生活がスタート。で、この凸凹コンビがまず立ち向かうのが、ヴェノム君と一緒に地球へ来ていた凶悪な同胞。ヴェノム君は移動のために一時的に体を借りた相手を殺してないし体に問題ない状態で離れてるけど、たぶんこいつは用が済んだら食っちゃってるような気がする。基本常に腹減らしてる連中みたいだし。

しかし、別れた男の様子がおかしいってちゃんと心配してくれる元カノもすげえいい子だし、後釜の医者やってる彼氏も一緒に心配して、自分で職場の病院に連れて行って検査してあげるのめちゃくちゃいい奴だな! まあ、彼女も人間としてすごくいい人なのよねえ、ぐらいには思ってる節はあって、より戻す気はないけどいい友達にならなれる、ぐらいの距離か。ヴェノム君に体貸してやって助けに行ったもんねえ。

 

ちなみに、内藤泰弘先生のファンの間では有名な話だし、内藤先生ご自身も公言してますが、このコンビがあのコンビのモデルになっているそうで、

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「すげえ悪い奴とすげえ善人がタッグを組んで戦う」というので、どのぐらい悪いんだと思ってたら、ヴェノム君は悪い奴というよりは、腹減ってるガキ大将ぐらいの感じでした。「食べていいのはすっごい悪い奴だけ」「いい人は食べちゃダメ」って釘刺されて「わかった」って、結構素直だな! あと主人公のエディ君よりハマー君の方が天然色が強いですね。

確かにイメージの源泉はあるんだけど、でも内藤先生すげえな。完全に別のコンビです。これが神の御業か…。

 

話がそれた。

 

それにしても、エンドロールのあたりでいきなりブッ込まれた「スパイダーマン」のアニメパートは何だったんだってばよ。

まあいい。エディ君すげえいい奴で、トム・ハーディは結構素でやってるところがあったのかなかったのか、答えはすべて風の中。本人もすげえいい人なんだよねえ。ロンドンで車走らせてたら、隣で信号待ちしてたバスの運転手のおネエちゃんが「マックスー! 」って呼びかけたら手ェ振って「フュリオサー! 」って答えたりしてくれるんだぜ。気さくか!

 

いうたらこの映画は、コンビ結成秘話みたいなもんなので、このあとの2人の活躍がどうなるのか、もうちょっと観たいところです。確か2作目あったよね?

そのうち続編をどこかの配信サイトで見かけたら観ようと思います。

 

ちなみにトム・ハーディは、MMFRからこの映画を観て、更に「裏切りのサーカス」を続けて観ると、変化の激しさにひっくり返れますよ。驚いたか。ってうちの鶴さんが言ってた。

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さっき一緒にこの映画観てたら、MMFRの主演俳優だっていった途端にこんな顔になってたもんね。

 

しかしあのアニメパート、あれはどこに繋がってるんですかね。

第6回 「復活の日」

連休前の深夜。泡の出る茶色いやつを呑みながら観てしまいました。

大概は350缶2本でやめるんだけど、何だか間が持たなくて3本呑んでしまった。

ということで、まだ日本も角川書店も元気だった頃の1本です。

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実は私、この映画2度目ですが、ほぼほぼ初見と大差なし。

昔の小中学校では、生徒集めて体育館や講堂で映画を見せるのが授業の一環でありまして、中学生の頃にそういう視聴覚教室で観たんですがね。何でこの映画を選んだのか教師よ。小一時間問い詰めたい。何の関心もなく、自分で観たいものを選ぶのでもなく、関心のないものを2時間超見せられるわけで、だから当時の記憶では草刈正雄が出ていて南極でなんかやってる程度の、うっっすいもんです。

今改めて見ると、うん、このテンポ、監督が深作欣二だからまだ耐えられるってだけで、そうでもなければ私にはちょっとなあ。

あとやたら外国人が登場しまして、そういうキャスティングの点も考えると、金があるうちに作っといてよかったねと思いました(小並)

 

ジャンルとしてはパンデミックもので、このご時世で注目が集まったのか、ネトフリでも配信されております。

原作は小松左京。それを踏まえて観ていくと、小松左京先生のルサンチマンを各所に感じられてうーんこの。

ざっくりいうと、国際条約を密かに破って開発されていた米国製のウイルスが漏れて、地球上の脊椎動物が死滅。ウイルスが嫌う極低温環境の南極にいた、各国の基地に配属されていた800人ちょっとだけが、健康を損なわず生き延びていた…。というあらすじ。

帰ろうにも帰れず、故国からの連絡も途絶え、世界中で何が起こっているのか蚊帳の外な状態でさっぱりわからず、閉鎖環境下におかれて絶望する者、自暴自棄になり錯乱する者、それでも取り乱せずむしろ冷静になっていく者、様々いる中、地震予知の技術を研究するため調査隊のメンバーとなった草刈正雄が日本に残した元カノ・多岐川裕美は勤め先の病院が流行り病で野戦病院と化し多忙と疲労から流産、下について働いていた医師の緒方拳は診察の合間に過労で倒れ、さっきまで顔色よかったのにいきなりやつれて意識が不明! そこは触れないで差し上げろ俺! 知り合いの夫婦の家に様子を見にゆけば、女房の丘みつ子死亡! 残された子供も発病していて、そのまま安らかに死なせてやるべく「南極のパパに会いに行こう」と子供を連れてモーターボートで船出するって、宇宙船操縦できるのか万能すぎるぞナース!(船を宇宙船と呼ぶのは桜玉吉大先生の影響が濃すぎる) 一方、海の向こうのお米の国では、大統領が流行り病で死亡。死際の遺言で跡を継いだ副大統領もまた、南極の各国基地へ向けたメッセージを発信したところで力尽きて死亡! それに乗じ、我らがソヴィエト連邦にいかにうまく喧嘩を売るかしかテーマがない将軍が暴走、ソヴィエトからの攻撃に自動でカウンターかます各ミサイルのスイッチ入れたところでやっぱり死亡! なんかこの将軍の、それ以外のテーマのなさがもう、小松左京先生のルサンチマン丸出し感すごくてちょっと甘酸っぱい気分になるぞ! 

で、そんな世界中の獅子てんや瀬戸わんや(やめろ)は、何せ南極にいるのでわからないわけで、断片でしか入らない情報にやきもきしていたところに、米国からの最後のメッセージと、無線の使い方もわからないまま助けを求める子供が絶望し、親の銃で自殺する様子を偶然耳にしてしまった観測隊の渡瀬恒彦が引きずられて吹雪の中へ出て行っちゃったり、徐々に煮詰められて行きまして、ついに各国基地が集まって、どうも生き残りは自分たちだけのようだから独立国として肩寄せ合ってやっていこうということに。

移動の脚がない、食糧の備蓄も2年程度、おっさんから若ェ衆まで800人に対して女性は8人、という極限状態は問題しかないわけですが、その中で一番でけえ扱いで取り上げられるのは「男女比えげつなさすぎ問題」で、全員に公平に致す機会を与えてくれとか、この辺も、時代もあるんだろうけど、女性の方がむしろ主導権握っていける状況じゃないのかと思うんですがね。桐野夏生先生の「東京島」的にさあ! 結局、8人のうちのひとりの女の子が襲われたのがきっかけで行われた討論の結論は「我慢して」「野郎が何人いると思ってるの」「全員に平等に機会くれや」というゲスいもので、ここに更に、エゲレスの潜水艦クルーが加わって野郎が増えるからね。何だこの香ばしい地獄絵図。

そうこうするうちに、大地震が発生して核ミサイルが衝撃で発射される可能性とか言い出して、いやそんな、ブラウン管テレビ殴って直すとかそういうアレじゃないんだから。

すったもんだの末、正雄と、正雄が気に食わなくて突っかかってた米軍のあんちゃんがミサイルのスイッチ切りに行くことに。潜水艦でワシントンの湾岸まで乗りつけてからゾディアックでポトマック川へ入り上陸。がんばったものの、地震でミサイルは飛び立ち、軍人のあんちゃんは死亡! 作戦の性質上、行ったきりの特攻だった正雄は状況を報告して潜水艦は帰還。

まあ、物語自体はありがちな終わり方なんだけどね。正雄は3年4年かけて歩いて南極まで帰って、その間に十数名程度に目減りした生き残りの仲間と、ヒロインのオリビア・ハッセーと無事に再会、ウイルスは核爆弾の放射能が世界中にばらまかれて、正雄が帰る旅の間に変質・無害化していたというオチ。ちなみに正雄が道中発病もせずに無事だったのは、生き残りの中にいた学者がワクチン作るんだと独りで研究し、やっとできた自称自信作を注射していて、そいつがたまたま効いたから、という、何だよそれ結果オーライじゃねえか。てゆうかこの学者、ウイルスに放射能浴びせたら変質したって、母国でやらかしたから南極観測隊に放り込まれたマッドサイエンティストなんじゃないのか。どんな学者飼ってたんだよ…。

映画の感想ですか?

ダレ場ねえなと思いながら観てましたが、全体的にペースが緩いので、変にあったらテンポがおかしくなってたかも。あと多岐川裕美がねえ、今もきれいな方だよね。年輪は重ねても劣化してない美女だよね。ほんと変わらないのですげえと思いました。オリビア・ハッセーもやっぱりきれい。そりゃあ布施明がドゲザで「付き合ってください」をぶちかますのも無理ねえな。「ナイルに死す」でも思ったけどさ。それと正雄はしのごの言わずにおヒゲなさい状態でしたがやはりカックイイのって得だよね。

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で、大概のハリウッド映画は「ロシア人の役なのに顔がロシア顔じゃねえ」という問題がありますが、この映画もそうなんだよなあ。クルーに発病者が出たと救助を求めてきたロシアの潜水艦長、どう見てもラテンの血が騒いでねえか。ちなみにこのロシア艦は、病の蔓延前に任務についていたためクリーンだった先述の英国艦に轟沈されます。ひでえ。

それにしても、キャストの関係上どうしても大半のセリフが英語でして、それはいいんだけどね、翻訳した字幕が御行儀よくて、もしやと思ったらエンドロールに出てました。翻訳はやっぱり戸棚先生だった。

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フルメタル・ジャケット」で、日本語訳したセリフを更に英語訳し直して答え合わせをしたら「お上品すぎる」とキューブリック直々のご指摘で翻訳から外された戸棚先生。そりゃあ御行儀いいわなあ。

 

ということで、今観ると特撮が緩いとかミサイル基地のセットが雑いとかはありますが、街の中の荒れ具合とホワイトハウスの執務室が徐々に汚部屋になっていく過程は丁寧にやってたのはよかったなと。「金があったからできた」アトモスフィア濃厚な、ぬるーく観る類いの映画でした。

ほんとに何でこの作品を視聴覚教室でかけようと思ったのか、なぜこのチョイスだったのか、責任者の教師に意見訊いてみてえ。

 

追記:女の子が襲われて討論のくだり、ボーイズラブじゃダメだったのか? 

第5回 「来る」

さて、前回はスカッと爽快な、主人公が誰も殺さない、悪人すら全部救う映画でしたが、今回は血飛沫飛び交いひたすら殺伐アトモスフィア濃厚な映画。

「来る」。

何せオーボンなので、アノヨに近いものの話を一発かましておこう。

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一応ホラーなんだけどね、観ていても恐怖というより驚愕でしたわ。

 

冒頭、妻夫木聡演じる見栄っ張りでお調子者の男が、婚約者を連れて田舎の爺さんの法事に出るために帰省。未来の姑は、親戚の手前見栄はって、東京から自慢の嫁が来たように振る舞うものの、倅にはやれ地味な子だ、厨仕事に来られても邪魔だと愚痴り、それでもまあ結婚はして、という、田舎あるあるからもう香ばしい。

何せお調子者なので、披露宴では参列した友人がぼやき、どう見てもまっとうな暮らしぶりとは思えない新婦の母親は途中で帰り、と早速クソ展開。これは実に香ばしい。後の展開に期待が持てるな!

そんな香ばしさに全く気づかない鈍感な妻夫木は、妻に子供ができたと言われるとマンションを買い、仕事中には育児書を出してテキトーにサボり、子供が生まれるとキラッキラした育児ブログを開始。ブログでいい格好して閲覧数稼ぎたいがために、いいことばかり書き散らし、女房の育児疲れには無頓着、娘のおしめすら換えないという、絵に描いたような恐竜並みの鈍覚ぶり。

そんな若夫婦が、映画では序盤から匂わせているものの、当人にすればいきなり怪異に襲われるわけです。

まず田舎の母ちゃんが送って寄越した大量のお守りが切り裂かれ、後輩はそばに何もいないのに唐突に体を噛み裂かれ、その怪我がもとで死亡。思い余って親友を通して専門家に相談したら、マジモンのスーパーナチュラル案件で、目の前で見えない何者かに襲われた拝み屋のおばさんの警告で、それも滅多にないSSR級の危険な奴が相手と判明した━━。

で、ここで思うよね。ああ、このあと妻夫木が専門家の力を借りて女房子供守るために奮闘するのかな。

私もうっすら思ってたんですよ。

ところがここで、専門家の指示に従って怪異に向かい合う支度を整えている最中、妻夫木が食われて物語から退場! これには驚愕。わが本丸の鶴丸国永、後ろで煎餅食いながらだらだら観てたのが、この驚愕にいきなり姿勢を正したからね。

更に1年後。今度は残された新妻の黒木華嬢が、たった独りで育児に追われ、仕事に追われ、追い詰められてどんどん娘に当り始めたりする様子が描かれます。

このパートで、妻夫木視点では描かれていなかったものが次々出てきて、うわあ、とげっそりするんだ。亭主がクズなので早々に見切りをつけるに至った経緯が語られて、怪異が来る前からとっくにダメになっていた実情が明らかにされていきます。

ストレスが極まってついにキレた黒木嬢、娘を人に預けてデートに出かけちゃったりして、いつ何が起こってもおかしくないギリッギリのキワッキワが天元突破。

その間にもチクチクと怪異が襲いながらも、妻夫木に相談を受けた専門家の片割れ、シャーマン属性のキャバ嬢・真琴ちゃんが健気に子守をしていますが、ついに事態は洒落ならんところへ。専門家の残る片割れ・岡田准一演じる野崎の警告も虚しく、怪異から逃げようと娘を連れて歩いていた黒木嬢も退場! のけぞるうちの鶴丸国永!

慌てて一家のマンションへ駆けつけた野崎が見たのは、風呂場で血達磨になって虫の息の真琴ちゃん。担ぎ込まれた病院に翌朝やってきたのは、天性のシャーマン体質で、政府や司法機関の中枢にすら最敬礼で遇される、ガチガチのガチの能力者、真琴ちゃんの姉さんでした。

そして始まる、姉さんによる超弩級の大祓えの儀式。押せる横車は押し通し、使えるものは全部動員。知り合いの拝み屋・能力者・坊さんまでかき集めての総力戦。この、大祓えの支度をするところが最大の見どころなのではないかと思います。ここで一番滾った。

 

この映画、キャスティングがなかなかうまいです。

まず、お調子者の妻夫木が見事なクズだし、黒木華嬢もね、ああいるよねこういう子、というのがよく出てる。で、拝み屋のおばさんの柴田理恵が絶妙なんだ。

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何年前かにお笑い番組で出てたよね的な、こういうパチモン感濃厚なのを見せてからの、実際に会うとグラサンの下は、とか、隠れた真物というのが叩きつけられる。

岡田准一も見てこれ。

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ちょいと斜に構えてやさぐれてるんだけど、どっかで人間として捨てられないものを捨て切れない。このくたびれた感じは嫌いじゃない。

と思って観てるとこれだ。

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松たか子演じる、真琴ちゃんの姉さん・琴子さんのスカーフェイス姐ちゃん! ここまで電話越しに対策を指導して、声でしか登場しなかっただけに効果的。喋る言葉が感情を乗せないもんだから、余計にクールに見えてしまう。

この、真琴ちゃんの姉さんを除くメインの登場人物全員が、何かしらトラウマだの薄暗い過去だの人様にお見せできない黒いクソデカ感情だのを抱えていて、それと怪異と立ち向かう人間とがグッツグツに煮詰まった瞬間にやってくる真のクライマックス!

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いやあ、あの決着には度肝抜かれました。驚いた。

でもあれ、あのあとどうなったん? という含みを持たせるエンディング。

いやあれ、まじでどうなったんでしょうね。

琴子さん、あれを神として祀ったのか。怪異としてフルボッコの滅殺だったのか。気になるところです。

 

全体として、ホラーでありがちな気色悪さよりも驚愕がはるかに優っていたので、ひたすら驚きたい、刺激が欲しいときにはちょうどいいと思います。

撮影にあたって中島哲也監督は「心霊アヴェンジャーズ」と言っていたそうですが、個人的にはアヴェンジャーズというよりはエクスペンタブルズではないかと思いました。

一番気に入ったのは、新幹線で現場に向かう神主のじーさん連中。「これだけ声かけられてるんなら誰かしら着くだろ」と一見のんきに構えながら、新幹線の中で何の構えもなく自然に「じゃあちょっと分かれて動きましょうか」「それじゃあ私は新横浜で降りますわ」と息をするよに分担行動。「ヨルムンガント」ココの小隊を思わせるプロフェッショナルでした。気合を入れればお返事は「うぇーい」、リーダーのレームはテケトーに指示出してるように見えて、動けばそれがピタリとハマる。あれと同じ空気。

 

ああ、そうか。

映画本編の中では、怪異は「怪異」とすら呼ばれず、妻夫木は終始「あれってなんなんですか」と問い続け、黒木嬢は何が何やら分からぬままに終わり、スカーフェイス姐ちゃんは素っ気なく「あれ」としか呼ばなかった。なを呼んで縛るってのは、なるほど、そういう点では効果的なんだな。いい加減に名付けて見誤れば身を滅ぼすけど、ちゃんと向き合って確信をとらえた名付けをすれば、正体を知って正しく対処できる。

たぶん何事もなく祓えがうまく進めば、琴子さんが名をつけて縛って、封じるなり祓うなりしたんだろう。まだ実際に見てなくて名前のつけようがないし、いずれ名付けるから「あれ(仮)」で十分だろ、という素っ気なさだったのかも。怯え切ってまともに認識すらできないが故の、妻夫木の「あれ」とは真逆のところから出た呼び方だったのかも。

名前は疎かにできないね。

 

死ぬほどダルくて刺激が欲しい、そんなときには最高の映画だと思うので、驚きが欲しくなったら観てみよう。

スプラッタはあるけど、やたら痛そうなことや気色の悪い演出するコケ脅しはないので、そういうの苦手な方はあんしんです。私がちゃんと最後まで観られたので、血が苦手でなければいけると思います。

 

実写→アニメ→実写、というサイクルっぽくなっちゃってるけど、ほんと気にしないで。たまたまです。次に何が来るか、私にも現時点でまだ判らないので。

恐怖よりも驚愕という映画なので、退屈を忘れ果てるにはいいかも。

第4回 「プロメア」

ちょっと何日か間が開きましたが、今やっと映画を1本観る程度に気力体力の余裕を持てたのでいくぞ。

あと、実写→アニメ→実写、ときてのアニメ作品だが、そういうの気にしないで。たまたまです。

というわけで、今回はこれ。

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夏場に観るにふさわしい1本。

「プロメア」です。

 

もともと公開当時から気にはなってたんだけど、タイミングが合わず劇場では観られずじまい。ご縁がなかったということか、と諦めてたところ、先日いきなり尼損プライムに! ついったで相互のフォロワ様が大好きな作品ということもあるし、何より作品自体がイロイロ冒険や挑戦している様子だったので、これ幸いと視聴。

いやあ、観るほどにコレはクセになるし、たぶん劇場で観てたら「マッドマックス フューリー・ロード」の二の舞になってたなと噛み締めました。動画配信で、デスクトップで観てもすでに「よっしゃまた観るぞい」になってるからね。「MMFR」と同様、快感原則をこれでもかと刺激し満たす、宮崎駿監督いうところの「お客さんをお腹いっぱい楽しませてあげる」映画ですね。

未見の方のために要注意事項をあげると、全編最初から最後までクライマックス。体力があるときに、ひと息に楽しむ映画なので、なんかのついでとかではなく、この映画にちゃんと向き合うのだとコンディションを整えてから観ましょう。万全の態勢でもって堂々お相手する、そういう作品のうちの1本だと思います。

画面の色調やメカのデザインはポップだし、登場する女の子も露出はあっても爽やか。

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露出云々は、メインヒロインのアイナを見ればお分かりいただけるかと思います。これだけお腹や脚が出ていても健康的で嫌味がないよね。

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物語の重要なモチーフの一つ、炎もこの通りのカラフルさ。

で、冒頭にいきなりぶっ放されたこれが、映画の本質を語っていました。

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隙あらば見得を切る主人公・ガロ君。

冒頭のこれを見て「ああ、この映画は歌舞伎だな」と思ったら、やっぱり最後まで歌舞伎だった。ちゃんと歌舞伎のフォーマットに乗っていた。

今の若い子が抵抗なく気軽に楽しめるスタイルとルックスにした歌舞伎。それが「プロメア」という映画。

 

歌舞伎というと、伝統芸能でチケットも高くて、そもそも舞台に足を運ぶのにそれなりの身なりでないといけないだろうとか、すごく敷居が高いもののように思われがちですが、実際はこのぐらいカジュアルに楽しんだって問題ないものです。ジーンズにスニーカーとかで観に行って、何の支障もなかったぞ。あと、日本文化専攻と思しき若者が結構ラフな格好で舞台観たりもしてるから無問題だ。

だけど、そういう敷居の高さがイメージとして着いちゃってるんだけど、そのイメージを取っ払って本質だけにして、これから観に来てほしい若い子たちに届きやすい衣装をつけた結果がこれ。

キャラクターがまず判りやすいですよね。

曲がったことが大嫌い、ちょっとおバカでも憎めなくて、目の前で虐げられてる弱いものに味方するガロ君。

持って生まれた体質から差別され、同じ立場の仲間を勇気付けたくて立ち上がった、それでも非道は行わないリオ君。

そして村を焼く堺雅人

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じゃなかった、裏ではギットギトの野望を持ちながら、それはおくびにも出さず行政のトップとして善きリーダーに徹して見せるクレイ。

このキャラクターの関係が、歌舞伎の必須条件であるどんでん返しを見せる要素であると同時に、為政者のヤバさを効果的に見せるために、うまいこと配されているんですよね。

為政者がいかにヤバいのかは、この映画のクライマックス、タッグを組んだガロ君リオ君に対峙するあのロボを見ていただくとお分かりいただけるかと。

あまり語るとネタバラシになってしまうし、私「聖⭐︎おにいさん」のイエスばりにネタバラシは勘弁してほしい派なので、本質的なことだけにしておきますが、とにかくこのアニメは歌舞伎だと思ってお楽しみいただくといいかなと。構造が歌舞伎だった。

 

他には、あんまりアニメにありがちな音楽の使い方とは一線を画していて、そういうところでもちょっと冒険していますね。もっとドラマに寄ってるというか。あまりアニメでは使わなさそうな挿入曲が入ったりしますが、この作品のテンポやビジュアルにはハマってます。

キャストも声優さんが脇を固め、主役クラスの3人は松山ケンイチ早乙女太一堺雅人と、アニメとは縁の薄い俳優さんを呼んでますが、全然ご本人の顔がチラつかなかったのすげえな。これができる俳優さん、少ないんですよね。なまじ売れていると逆に、声だけの仕事をされるとき、ご本人の顔が浮かんじゃって映画に集中できなくなる。他にこれができるのって、竹中直人とか、ちょっと前に残念ながら亡くなられた根津甚八さんとか、そのぐらいじゃないのか。あとは「スカイ・クロラ」のメインキャラ4人の声を当てていた菊池凛子加瀬亮谷原章介栗山千明。このぐらいしか知らない。そのぐらいすごい。

 

まあ、映画としては「ダレ場がない」という点はあるものの、これ、言っちゃえば歌舞伎を映画にしてるだけだからね。映画じゃなく歌舞伎のフォーマットだから、シネマ歌舞伎に近いわけで、そりゃあなくてもおかしくないわなあ。

なので、この映画の観方として一番理想的なのは、クッッソ暑い日に涼しい映画館に入って、この映画を観て外に出ると、一番暑い時間帯でカーッと太陽が照りつける、という感じかしら。

まあ映画館じゃなくても、自宅で動画配信でも十分に堪能できる作品ですが。

たぶん夏場にリバイバル上映とかやられたら行っちゃうかも。

まだ観てないという方、今なら尼損プライムに入ってるから。観て。お願い。

そして冒頭のガロ君のパワあるお言葉「燃えていいのは魂だけ」にやられてほしい。

観て損はないから。お願い。観ろ。

ついに強制じみてきたところで、今回は終了。次回をお楽しみに。

あんまり間を開けないように気をつけます。